
令和元年(行ケ)10142号 「ロール製品パッケージ」事件
事件番号 | 令和元年(行ケ)10142号 |
裁判所 | 知財高裁 第2部 |
判決言渡 | 2002年6月3日 |
事件種別 | 異議申立による取消決定に対する審決取消訴訟 |
結論 | 請求棄却 (特許取消決定維持) |
特許番号 | 特許第6314029号 |
発明の名称 | ロール製品パッケージ |
主な論点 | サポート要件 |
本件は、異議申立による取消決定に対する審決取消訴訟です。異議申立によってサポート要件違反等に基づいて全ての請求項に係る特許が取消決定となっていましたが、その取消決定が維持されました。
近年、進歩性のハードルが下がっている一方で、サポート要件等の記載要件のハードルが高くなっていると言われていますが、本件では、それを象徴するように、特許権者には非常に厳しい判断がされています。サポート要件は、特許権者に立証責任があり(偏光フィルム事件)、サポート要件違反によって全ての請求項が無効又は取り消しになるという場合は、特許権者の主張及び立証が不適切であったりするのですが、本件では、判決文の原告の主張を読む限りでは、そのような事情があったとは思えませんでした。
本件発明は、以下の図のような、トイレットペーパー等のロール製品がフィルムで包装されたロール製品パッケージに関するものです。


訂正後の請求項1は、以下のとおりです:
【請求項1】 ポリエチレンからなり,密度が0.86~0.91g/cm3,坪量が25.5~40.5g/m2,厚さが29~47μmのフィルムからなる包装袋に,衛生薄葉紙のシートを巻いたロール製品を縦に2段で4個,キャラメル包装又はガゼット包装にて収納してなるロール製品パッケージであって, 前記ロール製品パッケージは,前記ロール製品が前記包装袋に接するよう前記ロール製品の配置された寸法と略同一寸法で, 前記ロール製品が2plyの場合,巻長が65~95m,コアを除く1ロールの質量が200~350g,巻き硬さが1.2~2.3mmであり, 前記ロール製品が1plyの場合,巻長が125~185m,コアを除く1ロールの質量が250~430g,巻き硬さが0.7~1.8mmであり, 前記ロール製品が2plyの場合,(前記巻き硬さ(mm)/前記フィルムの坪量(g/m2))が0.037~0.071(mm/(g/m2))であり, 前記ロール製品が1plyの場合,(前記巻き硬さ(mm)/前記フィルムの坪量(g/m2))が0.021~0.055(mm/(g/m2))であるロール製品パッケージ。 |
本件発明では、ロールの重量、巻長及び巻き硬さ、フィルムの坪量、フィルムのポリエチレンの密度及び厚さ等を最適化することによって、「持ち運ぶ際に破れにくくてゴワゴワせず、かつ適度な巻き硬さを有するロール製品を包装した場合にロール製品が潰れ難いロール製品パッケージの提供」(【0004】)ができるとしています。
異議申立による取消決定では、主に次の点が指摘されていました:
(1)本件発明の課題は、「持ち運ぶ際に破れにくくてゴワゴワせず…ロール製品が潰れ難いロール製品パッケージの提供」(【0004】)であるが、実施例で評価されている「フィルムの強さ」について、どのような状況でのフィルムの破れの有無を評価したものであるのかが記載されておらず、「フィルムの強さ」が持ち運ぶ際の破れにくさを表しているのかどうか理解できない。
(2)「フィルムの強さ」が,特許権者の主張する持ち運ぶ際に破れにくいことを表しているとしても,ロール製品パッケージは…持ち運ぶ際の破れにくさは,包装形態,把手部の形態等によって異なることからすると,包装形態が明らかでない実施例1~12の結果から,本件発明1のキャラメル包装やガゼット包装のものが,持ち運ぶ際に破れにくいという課題を解決できるとは認識できない。
これに対して、本件判決では、上記(1)については、実施例で評価されている「フィルムの強さ」が持ち運ぶ際の破れにくさを表しているということが理解できるとはしたものの(判決文の55頁2~9行目)、(2)については、取消決定と同様の判断をしました。すなわち、判決文では、上記(2)に関して次のように判断をして、本件発明がサポート要件を満たさないと判断しました:
「ガゼット包装で包装したロール製品パッケージ(…)を消費者が運搬する場合は,同商品の質量分の負荷を主に受ける部分は,持手部に設けられた指掛け用の穴のうち,消費者が指を引っ掛けている部分であるから,同部分は,運搬時に破れる可能性が高いと推認できる。…原告は,本件発明は,包装袋以外の部分の破れ,例えば,持手部の破断の防止までを目的とするものではないと主張するが,上記のとおり,ガゼット包装パッケージを消費者が運搬する場合,持手部に設けられた指掛け用の穴のうち,消費者が指を引っ掛けている部分は破れる可能性が高いのであるから,本件発明において,このような破れる可能性の高い部分のフィルムを破れにくいものとすることを課題としていないということは不合理である」(判決文の56頁5~21行目)。
私見では、原告による「本件発明は,包装袋以外の部分の破れ,例えば,持手部の破断の防止までを目的とするものではない」という点の主張は、妥当であるように考えられ、特許権者に厳しすぎるように思えます。
ただ、準備書面を見たわけではないのでなんともいえないのですが、この点の主張をもう少し膨らませたほうが良かったのかも知れません(準備書面ではもっと膨らませていて判決文に要約が記載されているだけかも知れませんが)。
また、私であれば、以下の(A)及び(B)ような主張を行ったと思います。
(A)課題の認定について争い、特許庁が認定する「持ち運ぶ際に破れにくくてゴワゴワせず…ロール製品が潰れ難いロール製品パッケージの提供」という本件発明の課題は妥当ではなく、本件発明の課題が「十分なフィルム強度を有していながらもゴワゴワせず…ロール製品が潰れ難いロール製品パッケージの提供」であると主張をします。その主張が裁判所から認めてもらえれば、「破れる可能性の高い部分のフィルムを破れにくいものとする」等の議論をする必要がなくなります。「十分なフィルム強度を有しながらも」という課題は、請求項1の「ポリエチレンからなり,密度が0.86~0.91g/cm3 ,坪量が25.5~40.5g/m2,厚さが29~47μmのフィルム」という構成によって解決することができるという主張が可能になります。
(B)本件発明の課題が特許庁の認定どおりであったとしても、実施例と比較例のフィルムとで同じ部分の破れにくさを評価している以上、消費者が指を引っ掛けている部分(すなわち破れる可能性の高い部分)でこれらのフィルムを比較しても、本件発明に係る実施例のフィルムが、比較例のフィルムよりも破れにくいということは当業者であれば理解できる、等の主張を追加して行います。
上記(A)の主張に関しては、近年では、サポート要件についての拒絶理由等に対して、課題の認定を争うということが特に重要であると感じています。訴訟中にこの点を争って、審決が覆された判決例が近年、非常に多く出されています(例えば、平成29年(行ケ)10230号(ポリイミド事件)、平成29年(行ケ)10129号(ライスミルク事件)、平成30年(行ケ)10170号(フルオロスルホン酸リチウム事件)等)。発明が解決する課題が何かという点を争うことによって、クレームの範囲を減縮することなしでサポート要件違反の指摘をあっさりと覆すことができる場合があるため、サポート要件について検討を行う際は、課題の認定について争えないかということは常に検討を行うべきです。
もっともこの事件については、上記(A)及び(B)の主張をしても、非常に厳しい判断をされてしまっており、結論は変わらないのかなあという気もしています。