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EPC54条(3)の規定と自己衝突について その2(先願出願人の立場)

EPC54条(3)の規定に関して、先願の出願人の立場に立って、別の出願人による後願の排除しやすさを考えてみると、先願の出願人にとっては、米国では後願の排除が比較的容易であり、日本、韓国及び中国では、後願の排除がそれなりに難しく、欧州では後願の排除は非常に難しいことになります。欧州では、後願排除のためには、明細書に周知技術等をできるだけ多く記載してくことが重要となります。

だからといって、PCT出願の明細書を50ページとか100ページとかにしてしまうのは、非常に無駄が多いと考えます。もちろん、欧州での後願排除を考慮すれば、明細書は長ければ長いほどよいといえますが、各国での翻訳コスト等を考慮すれば現実的ではないですし、欧州の出願人の明細書を見ていても、後願排除のために明細書を長くするという思想はないようです。

我々代理人として悩ましいのは、出願人が明細書の第一案を作成し、我々がそのレビューをして出願するという場合です。出願人が過去の明細書を使いまわして、長い明細書を第一案とした場合に、代理人の立場としては、その長い明細書に含まれる重要ではない記載を削除することは、欧州の規定を考慮した場合、立場上困難になります。我々代理人が重要ではないと考えた周知技術に関する記載を我々が勝手に削除したために、欧州で後願が特許になるということが考えられるためです。

以前、欧州の代理人に、このような場合(出願人側が長い明細書を第一案で送ってきた場合)にどうすれば良いかと質問をしたところ、やはり欧州の代理人としても、代理人の立場として、長い明細書を短くするのは得策ではないであろうとのことでした。

その代理人に対して、先願の明細書に長々と記載されている周知技術に関する記載を、他の公知文献を引用する形にすれば(例えば、酸化剤の周知の種類を延々と明細書に記載するのではなく、「酸化剤としては、特開2017-XXXXXXに記載のもの使用することができる」等と記載すれば)、後願を排除できるのではないかと質問したところ、ガイドライン上はそのとおりであるが、実際に後願を排除できるかは不明であるとのことでした。

すなわち、EPOのガイドラインG-IV 8では、第1の文献が、ある特定の特徴について詳細な情報を他の文献がもたらすものとして引用している場合、他の文献の内容は第1の文献の開示内容の一部とみなされると規定されているため、ガイドライン上では、他の公知文献を明細書において引用しておけば、他の公知文献の記載内容に基づいて、後願を排除することが可能になります。

しかし、欧州の代理人が気にしていたのは、EPOにおける「Gold Standard」の規定です。これは、新規性の有無の判断、補正が新規事項に該当するかの判断、及び優先権主張をした場合に優先権主張が認められるかの判断において、文献の開示内容等の解釈が同一の判断基準でなされるというものです。

すなわち、他の公知文献を明細書において引用することによって他の公知文献の記載内容に基づいて後願を排除することが可能であるとすれば、「Gold Standard」の考え方に基づけば、他の公知文献を明細書において引用することによって他の公知文献の記載内容に基づいて、その明細書を補正することが可能、という帰結をもたらします。現地代理人は、そのような補正をEPOが認めるとは考えにくいため、EPOのガイドラインG-IV 8と「Gold Standard」の考え方には、統一性がないのではないかということでした。仮に、後願の排除を意図して、他の公知文献を明細書において引用する場合には、その公知文献のどの部分に記載されているかについてまで、しっかりと引用すべきとのことでした(すなわち、「酸化剤としては、特開2017-XXXXXXの段落00XX~00XYに記載のもの使用することができる」等と記載する)。

上述のように、EPC54条(3)の規定は、非常に悩ましいものです。なお、この規定は、欧州において、毒入り分割という上述した問題点よりも非常に大きい問題の論点をも生み出しましたが、今となっては解消しています。

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