令和元年(行ケ)第10095号「多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法」事件

事件番号 令和元年(行ケ)10095号
裁判所 知財高裁 第1部
判決言渡 2020年3月12日
事件種別 異議申立による取消決定に対する審決取消訴訟
結論 請求棄却 (特許取消決定維持)
特許番号 特許第6154074号
発明の名称 多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法
主な論点 明確性

 

 上記事件は、異議申立によって全請求項が取消決定となったことに対する審決取消訴訟です。主な争点は、請求項1に記載の炭化タングステン粒子の粒径の測定方法です。

 粒径の測定方法については、従前から問題になることが多く、有名な事件としては線状低密度ポリエチレン系複合フィルム事件(平成15年(行ケ)第272号)が挙げられます。この事件では、請求項に記載された微粒子の平均粒径について、明細書に測定方法が記載されておらず、またどのような平均粒径を用いるかについての技術常識があったとも認められないとして、特許の取消決定が維持されました。この他にも、明細書中に粒径の測定方法が記載されていない結果、特許が無効であると判断された事件としては、平成20年(ネ)第10013号、平成28年(行ケ)第10187号等が挙げられます。
 なお、平成17年(行ケ)第10661号のように、明細書中に粒径の測定方法が記載されていないとしても、請求項に記載の平均粒径がどのような平均粒径であるか技術常識があったと判断されて、特許の取消決定が覆された(特許が維持された)事件もあります。

 この令和1(行ケ)第10095号「多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法」事件では、炭化タングステン粒子がバインダーであるコバルトと焼結で一体化されており、請求項1にその炭化タングステン粒子の平均粒径が特定されていました。また、過去の例のごとく、明細書中には平均粒径の測定方法が記載されていませんでした。
 そのような状況において、原告(出願人)は、「本件明細書には,炭化タングステン粒子の代表径の定義ないし測定方法の明示的な記載はないが,技術常識(甲19~22)を踏まえれば,沈降法によって測定されるストークス径と理解するほかない。…(略)…本件発明において主に想定されているバインダーは,コバルト結合剤であるところ,コバルトの融点は1495℃であるから,焼結の工程で焼失することはない上,炭化タングステンの融点は2870℃とコバルトのそれよりも遥かに高いのであるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である。」等と主張しました。
 それに対して、裁判所は、「粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られるとしても,『粉砕工具』の『工具表面』に『含有』される炭化タングステン粒子が,コバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タングステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。…(略)…しかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の『炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径』が,コバルトを除去して取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジアン粒径であるとは解されない。仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないという根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストークス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングステン粒子のストークス径であるということもできない。」と判示しました。
 すなわち、出願人が、技術常識を踏まえて粒径が沈降法によって測定されるストークス径であると主張しましたが、裁判所は、明細書中に記載がなく、そのように測定することが妥当とも考えられない、と判断しました。

 結局の所、明細書に粒径の測定方法を記載することが一番重要ではあるのですが、明細書に粒径の測定方法を記入したとしても、例えばこの事件の場合のように、固体に含まれている粒子の粒径を請求項で特定する場合、注意が必要です。例えばポリマーのフィルムに含まれるポリマー微粒子の粒径を特定しようとした場合、フィルムを溶剤で溶かしてポリマー微粒子の粒径を測定しようとすると、ポリマー微粒子を取り出す過程で粒径が変化する可能性もあります。したがって、このような場合には、「~法で測定した平均粒径・・・のポリマー微粒子を含む、ポリマーフィルム」という物のクレームだけではなく、「~法で測定した平均粒径・・・のポリマー微粒子を混合することを含む、ポリマーフィルムの製造方法」というような製造方法のクレームも作成しておくのがよいことになります。

 なお、本事件の出願人はワッカー・ケミーというドイツの大手化学メーカーでした。上述した、線状低密度ポリエチレン系複合フィルム事件(平成15年(行ケ)第272号)については、三極特許庁の事例研究対象となっていました。そして、日本の特許庁が記載要件を満たさないと判断したこの事件について、EPO及びUSPTOは、記載要件を満たす可能性が高いと判断しています。このような事情では、しょうがないことですが、EPO及びUSPTOを基礎とする出願は、日本特許庁のハードルの高い記載要件を満たせない場合があります。本件の対象特許のように、PCTルートで来た場合にはお手上げですが、パリルートで外国から出願依頼が来た場合には、請求項に記載の数値限定について測定方法の記載が含まれているか等を確認しておくことがよいと思います。

https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/nichibeiou/sinsa_jitumu_3kyoku.html

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