共有特許の特許権者自らによる無効審判(無効2018-800153号、令和2年(ネ)第10016号)

 「結ばなくていい靴紐」の特許発明(特許第5079926号)について、共有特許権者間で侵害訴訟が行われています。これは、当事者がプレスリリース等で発表しているため、特許業界ではご存じの方も多いのかも知れません。その侵害訴訟(令和2年(ネ)第10016号)の知財高裁判決が先日出されました。
 この訴訟は、弁理士試験の題材になりそうな法律的には非常に興味深い内容となっています。特許法73条2項によれば、契約で別段の定めがなければ、各共有特許権者は、他の共有者の同意を得ないで特許発明の実施をできるとされていますが、本件では、契約で別段の定めがあったために、一人の共有者が、他の共有者から特許侵害訴訟を提起されています。
 この訴訟に関連して、侵害訴訟の被告である共有者が無効審判の請求を行ったという事件が、掲題の無効2018-800153号です。この事件では、無効審判請求人と被請求人が一部同一になっており、これは特許法132条の共同審判の規定からも興味深く、審決の「第9 付言」において、特許法132条3項の規定との関係について説明がなされていますが、それ以上に、訂正請求の請求人適格に関する論点がとても興味深い事件です。

 特許法の条文上、被請求人(特許権者)による訂正の請求は、共有者の全員が共同して請求しなければならないとされています(特許法134条の2第9項で準用する同法132条第3項)。ここでこの無効審判では、特許権の共有者が無効審判の請求人であったため、条文上、被請求人である特許権者が訂正請求をするためには、無効審判の請求人と共同で訂正をする必要があることになります。そこで、被請求人(特許権者)は、無効審判請求を行った請求人(共有者)が被請求人による訂正請求を一方的に妨害できるとすれば不当である等の主張をしていました。しかし、それに対して、合議体は、「本件のように特許権の共有者が無効審判を請求した場合でなくとも、共有者間で訂正請求の合意がなされない場合は普通に想定されるものであり、共有者の協力が得られない場合に、訂正による利益が得られないこと自体は特許法の予定するところであるから、このことのみをもって、無効審判請求を行った共有者の請求人適格を否定することは困難である。」と判断しました。

 これはどういうことかというと、共有特許権者から無効審判の請求がされた場合においては、特許を維持したい特許権者は、無効審判で訂正請求を行うことができないことを意味しています。また、特許法127条では、通常実施権者や専用実施権者がいるときには、特許権者は、それらの実施権者の承諾を得なければ訂正審判の請求ができないとされていますが、類推して同様に考えると、共有特許権者の場合だけではなく、通常実施権者や専用実施権者から無効審判の請求をされた場合には、特許権者は、無効審判で訂正請求を行うことができないと考えるべきかもしれません。「共有者の協力が得られない場合に、訂正による利益が得られない事自体は特許法の予定するところである」という理由付けがそのまま当てはめ可能であるからです。実際に、無効審判請求人は、被請求人(特許権者)による請求人適格に関する主張の反論として、特許法127条の規定を引用していました。

 この事件からは、まず何よりも共同出願契約の大切さが重要であることが理解できますが、明細書作成の観点でいえば、従属請求項の大切さを理解できます。

 特許権者が訂正請求できないという状況の中で無効審判で勝つには、特に従属請求項があればあるだけ有利になります。従属請求項があればあるほど、その少なくとも一部の請求項は維持審決に持ち込める可能性が高くなるためです。逆に、請求項がわずかしかない特許において、ほんの少しだけ構成を限定すれば新規性違反を解消できるのに、訂正請求ができず、かつそのような限定した構成を特定した従属請求項に存在しない結果、その特許全てが無効になるという状況に陥る可能性があります。

 もちろん、上記の無効審判の審決は、知財高裁で取り消される可能性もありますし、共有特許権者、実施権者等から無効審判を請求されることは極めてまれでありかつ契約で上記のような状況になることは未然に防げるはずですが、従属請求項は、好ましくは10程度、少なくとも5程度までは作成すべきであり、そこに様々な特定が含まれるように検討すべきと考えます。従属請求項の重要性は、当事者系事件の全般に共通する点でもあり、当事者系事件は、十分に発生しうるものであるため、明細書作成時には念頭に置いておくことが重要です。
 また、外国出願を踏まえても15までは請求項を作成してもよいのではないかと考えます。中国等では、基本的に権利化後には、請求項の削除(従属請求項への限定)しかできないため、中国等での権利化を踏まえても、様々な従属請求項を作成しておくことが重要であると考えます。

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